岸和田東ロータリークラブ 国際ロータリークラブ第2640地区
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第1535回例会 1月18日(金)

 『飛翔館高校インターアクトクラブ卒業式』





 『ヒマラヤ8000m 低酸素とヒト』   出水クリニック 院長 出 水 明 様

 古い話で恐縮だが、1989年、90年に京都大学医学学術登山隊の一員として、ヒマラヤ登山に出かける機会を得た。1970年に工学部に入学した私は、学生時代を山岳部で過ごした。その時の仲間に、山やヒマラヤ地域でのフィールドワークの研究者がおり、私にも声をかけてくれた。同窓会的楽しさと、8000m峰の登山と学術研究を組み合わせた計画で、当時所属していた大阪大学麻酔科教授の理解もあり参加することができた。
 8000mを超える高峰は世界に14座あり1950年から1964年までの間に、全て国家の威信をかけた大規模遠征隊の極地法により初登頂された。当時は、8000m峰の無酸素登頂は不可能と信じられていた。しかしながら、イタリアの登山家メスナーが、1978年に無酸素でのエベレスト登頂に成功し、呼吸生理学的な関心を呼んだ。
 高所に登ると、低圧低酸素状態にヒトはおかれる。大気圧は5000mで1/2に、8000mでは1/3に下がり、当然酸素分圧も低下する。酸素を吸わずにヒトができることは、過換気により肺胞気のCO2分圧を下げ、それによってもたらされる髄液、血液のアルカローシスを代償し、ヘモグロビン濃度を上げ、赤血球中の2,3DPGを増加させて酸素解離曲線をシフトさせることなどである。
 初めて高地に来ると、その数時間後に、頭痛、動悸、疲労感、嘔気、睡眠障害、食思不振などに襲われる。これを急性高山病(Acute Mountain Sickness :AMS)という。急に3000m程度以上に達すると起こりやすく、国内でも珍しくない。原因は、低酸素血症とそれに対する換気量増加により起きる呼吸性アルカローシスに対する生体の反応にある。通常、同一の高度でいれば、1から3日間でこの症状は消える(高所順応 Acclimatization)。順応に失敗すると一部の人は肺高血圧症から高地肺水腫(HAPE)、高地脳浮腫(HACE)などの致命的状態となることがあり、国内でも発症がある。治療はとにかく下降することである。その他、酸素投与、Gamov Bag(加圧バッグ)使用、ステロイド投与、Ca拮抗薬投与などが行われている。こうした重篤な高山病症状を発症した個人には再現性があると言われ、再度の挑戦は危険である。
 予防は、ゆっくり高度を上げる、初めての高度で寝ない(高く行動して、低く寝る)、無理をしない、ダイアモックス(炭酸脱水酵素阻害薬)の予防内服などである。最近は中高年齢者のヒマラヤトレッキングが盛んで、こうした医療知識は登山医学、Wilderness Medicineとして重要になっている。高所順応は以下のような機序で起こると考えられている。
(1)低酸素刺激に対する換気量の増大による肺胞気CO2分圧の低下とそれによる肺胞気酸素分圧の上昇
高所→低酸素血症→末梢化学受容器が刺激→過換気→肺胞気CO2分圧低下→肺胞気酸素分圧上昇。Everest山頂でのPCO2は8torr、肺胞気PO2は33torrと言われている。換気量増大でPCO2は低下し呼吸性アルカローシスとなる。脳脊髄液中のPCO2も低下し、pHが上昇するが、1日後には重炭酸イオン(HCO3-)を外へ輸送し正常方向へ改善する。さらに2−3日後には腎臓から重炭酸イオンが尿中に排泄され、動脈血pHは正常に近づく。これで換気量はさらに増加し同じ高度での酸素飽和度は改善する。
(2)赤血球数増加による酸素運搬容量の増加。低酸素血症にさらされるとすぐに、腎臓からエリスロポエチンが大量に放出され、多血症状態になっていく。
(3)その他、2,3DPGの増加(末梢での酸素放出の改善)、細胞内参加酵素の変化、骨格筋単位容量あたりの毛細血管数増加など。
 実際に、登山の前後で、同一高度でのSpO2は著明に改善している。低酸素性換気応答の優れた人は高所でのパフォーマンスが高いと言われている。
 15歳の頃から始めた登山、特に大学山岳部での登山は多くのことを教えてくれた。自然の偉大さ、人間の偉大さともろさ、チーム(パーティ)論、
リーダーシップ、フォロワーシップ、シンプルな生活、そして友情である。私の登山歴は途中で何回かの中断を挟んでいる。特に、開業後10年ほどは在宅ケアで24時間対応をしていることもあり、全く出かけなかった。しかし、最近はまた、地域の開業医同士の連携により、待機をお願いして、家内や看護師と日曜登山に出かけることが出来ている。自然とふれあい、適度に体を使い、温泉に浸かり楽しい時間を過ごしている。24時間対応での在宅ケアと登山の両立が私の今の課題である。