1 定義
所有者不明土地とは、不動産登記簿等の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない、または判明しても所在が不明で連絡がつかない土地をいう。
2 現状
国土交通省の2017年の調査では、全国の土地のうち所有者不明土地は22%に上り、所有者不明土地面積では約410万㏊に相当(九州の土地面積は378万㏊)
3 所有者不明土地が生じる原因
多くは、所有名義人が死亡しているにもかかわらず相続登記がなされていない。
4 所有者不明土地による支障
例1
台風被害で工場敷地が浸水した。高台に移転したい。いい土地が見つかったが、予定地の一部に所有者不明の土地があり、移転が進まない。
例2
隣地が空家になっており、木の枝が当方の敷地に入り込むようになって困っている。
5 所有者不明土地問題に対処するための法整備
所有者不明土地問題に対する法整備
令和3年4月21日 民法等の一部を改正する法律
相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律が成立
これらの法律は、所有者不明土地の「発生の予防」と「利用の円滑化」の両面から総合的に民事基本法制の見直しを行うもの
6 まず、「利用の円滑化を図る方策」ですが。
- 共有物利用の円滑化を図る仕組みの整備
- 所有者不明土地(建物)管理制度の創設
- 隣地等の利用・管理の円滑化
次に「発生の予防」の方策
- 相続登記の申請義務化
- 名称・住所変更登記の申請義務化
- 相続等により取得した土地所有権の国庫帰属
7 共有物利用の円滑化を図る仕組みの整備
現状 共有となっている不動産の利用や処分にあたっては、共有者全員の同意を得なければならない場合が多く、一人でも行方不明の共有者がいるとその不動産の利用や処分に支障が生じる。
改正 そこで、共有者の一部に行方不明者がいても、裁判所の関与の下で、不明共有者に対する公告等をした上で、残りの共有者の同意により共有物の変更行為や管理行為を可能とする制度が創設された。
さらに、裁判所の関与の下で、不明共有者の持分の価額に相当する額の 金銭を供託して不動産の共有関係を解消したり、不明共有者の 持分も含めて第三者に譲渡したりすることができるようにする仕組みも創設された。
8 新たな土地・建物管理制度の創設
現行
土地・建物の所有名義人が行方不明の場合、不在者財産管理人を専任して対応
しかし、不在者財産管理人は不在者の全財産を管理することが求められ、個々の土地・建物だけの管理については難しい面があった。
改正
個々の所有者不明土地・建物の管理に特化した新たな財産管理制度が創設された。これにより、裁判所が管理人を選任し、裁判所の許可があれば、管理人において不動産を処分することが可能となった。
また、所有者が判明していても、その所有者が土地・建物を管理せずに放置しているため、他人の権利を侵害するおそれがある場合にも管理人の選任を可能とする制度もあわせて創設されることとなった。
9 隣地等の利用・管理の円滑化
(1)隣地使用請求権(新209条)
現行
土地の所有者は、境界またはその付近において擁壁または建物を築造しまたは修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができることとなっている(民法209条)。
これまでは、隣地所有者がこれに応じない場合は訴訟を提起しなければならず、隣地所有者が行方不明の場合には、相当な手間を要することとなる。
改正
そこで、あらかじめ通知を行うなどの一定の要件の下、隣地所有者の承諾等が得られなくても土地所有者の隣地使用を認める方向で改正がなされた。
(2)電気ガス水道等のライフラインの継続的給付を受けるための導管等の設備設置権(新213条の2)
(3)隣地から越境した竹木の枝の切除等(新233条)
10 遺産分割未了のままで長期間経過後の遺産分割の見直し
現行 遺産分割における特別受益や寄与分の主張について期間の制限はない。
改正 相続開始から10年を経過したときは、原則として特別受益や寄与分の主張を認めないこととし、画一的な法定相続分で簡明に遺産分割を行う仕組みが創設された。
11 所有者不明土地の発生を予防する方策
(1)相続登記の申請義務化
相続により所有権を取得した者は、所有権取得を知った日から3年以内に相 続登記をすることを義務づけられ、正当な理由なく登記申請を怠ったときは10万円以下の過料に処せられることとなった。
この相続登記の義務化は、改正法の施行前に相続があった場合にも適用があり、法施行後3年以内に相続登記が必要となる。
(2)登記名義人の住所変更登記
これまで義務化されていなかったが、住所変更から2年以内に登記申請が義務づけられ、正当な理由なく登記申請を怠ったときは5万円以下の過料処せられることとなった。
法施行前の住所変更についても義務が課されることとなった
(3)相続土地国庫帰属制度の導入
相続登記がなされず放置されている土地が増加している原因の一つに相続した土地の利用を希望しないケースが増えていることが言われている。
現行法では、不動産の所有権放棄は認められていない。
そこで、相続または遺贈(相続人に対する遺贈に限られる)により取得した土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度を創設した。
問題点 管理コストの転嫁や土地の管理をおろそかにするモラルハザードが生じないよう次のような一定の要件が設けられる予定である。
a 管理等を阻害する工作物等がある土地、土壌汚染等のある土地、崖地、管理関係に争いのある土地など、通常の管理処分にあたり過分の費用または労力を要する土地でないこと
b 10年分の戸ch⑧管理費用相当額の負担金を納めること
12 施行
今回の法整備は、原則として2023年4月までに施行されることとなっている。
ただし、相続登記の義務化は、2024年4月までに、住所変更登記の義務化は2026年4月までに施行される予定。